オペラと釣り
1973年、僕がシドニーの駐在員だったときのことです。
支社の食糧部にOさんという、ユニークな人がいました。
長髪で、ベートーベンのような、芸術家タイプの人でした。有名なシドニー湾のオペラハウスがテナー歌手を募集したとき、応募してオーディションを受け、「オーストラリアごときが、俺をテストするとは、片腹痛い」と豪語しながら、本当にやすやすと合格してしまいました。ご本人いわく、シドニーのレベルなど、「取るに足らない」そうです。
どの会社にも、ゴルフで〇〇オープンに出場したとか、得意の分野で、プロ並の実力者がいます。Oさんは、まさにそういう人でした。
あるとき、財界の大物、有名な新日本製鐵の藤井副社長が来訪されたときは、支社長はじめ、10名ほどの駐在員が総動員で、シドニー湾を見下ろす大きな
社宅に集まり、接待しました。支社長は、押し出しはいいのですが、口数が少なく、夕食は盛り上がりません。
そのとき、Oさんがふと、オペラの話をしたところ、藤井副社長がグッと身を乗り出し、「自分もオペラが大好きだ」と、嬉しそうに言い、あとはOさんと藤井氏のオペラ談義が延々と続きました。支社長はじめ、僕たちはただ聞いているだけでした。
そのうち、Oさんが釣りの話に移ると、藤井氏が、「〇〇島の釣りは素晴らしかった」、するとOさんも「私も〇〇島で△△を釣りました」と、二人は意気投合、今度は釣り談義が延々と続き、夜が更けていきました。
Oさんと藤井氏のように、互いにシェア(共有)するものがあると、嬉しいものです。Facebook に投稿するのも、人とシェアするためですね。
僕がこれを書いているのも、皆さんとシェアしたいからです。
了
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