バスから降りよ
1961年のアメリカは、まさにアメリカン・ドリームに満ちた、良き時代でした。
前年の大統領選に勝った、43歳のジョン・F・ケネディは世界の希望でした。
「世界の皆さん、米国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。
我々が人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい」
就任演説は、世界の人々を熱狂させました。
僕は、交換留学生として、1961年の夏、夢見る思いで、アメリカの土を
踏みました。
大型の乗用車が、ハイウェイを、時速100キロで走り、サービス・エリアには、ファミリー・レストランがありました。
当時のアメリカ社会は治安も良く、クルマに鍵をかける人はいませんでした。
しかし、豊かな生活は白人だけのもので、黒人に対する差別はまだ根強く残っていました。
2日前に、ロス・アンジェルスからニューヨークに着いた僕は、これから、
グレイハウンド・バスで、ホスト・ファミリーの待つボストンに向かいます。
バスに乗り込み、出発を待っていると、そこへ白人の男性が乗ってきました。
すると運転手が、後方の席に座っていた黒人の老婦人に下りるように言い、
空いた席に、白人が座りました。バスは満員だったので、白人のために、黒人が下ろされたのです。
そのお婆さんは、また次のバスを待つしかありません。
上陸早々、アメリカ社会の舞台裏を見てしまいました。
了