キーン博士のキー・ワード
「素直」
キーン博士の生涯をみると、人生の流れに自然体で向き合い、自分に「素直」に生きたことに印象づけられます。
コロンビア大学に入学したばかりの頃、ニューヨークのタイムズ・スクェアにある書店で、偶然見つけた「源氏物語」(アーサー・ウェイリー訳)を安く買ったのが、日本文学の世界に入ったきっかけです。
フランス文学にも興味がありましたが、日本文学の方が研究者が少ないので偉くなれる、という友人のアドバイスに素直に従い、日本文学を選びました。
コロンビア大学では、「角田柳作」という良い師に恵まれ、日本思想史を学びます。
大戦中は、軍の学校で日本語を学び、日本語の通訳官として任務を果たします。
戦後はコロンビア大学に戻り、日本文学の研究を再開、ハーバード大学やケンブリッジ大学でも研究しました。
日本文学を生涯の研究テーマとし、東日本大震災を機に、日本に帰化し、大好きな東京の下町で、幸せに暮らしたようです。
「89歳で夢を発見」
キーン博士が日本に帰化したのは、89歳のときです。この年齢になって、「自分の夢」を発見しました。
ケンブリッジ大学の図書館で発見された江戸時代の「浄瑠璃本」をもとに、同大学初の浄瑠璃公演を実現したときは、90歳を過ぎていました。
晩年のキーン博士はテレビで、まだまだ研究を続けたいと、「現役」続行を明言しました。
最期まで、自分にも、他人にも、運命にも、実に素直に従った人だと思います。
97歳のとき、東京の下町で、仲の良い近所のオジサン、オバサンたちに見守られながら、幸せな生涯を閉じました。