maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

御曹司

母校、慶應大学は、二代目、三代目の社長になる人が多いといいます。

 

僕の周囲にも、そういう人は数人いました。

 

その1人、H君が卒業後だいぶ経ってから、クラス会で話したことがあります。

 

H君は、日本橋に本社のある、有名な菓子メーカーの御曹司です。明らかにスポーツマンらしい、立派な体格と、ゆったりした物腰、話し方は、なんとなく余裕を感じさせます。まさに育ちの良い、慶應ボーイであり、真似できません。

 

日本橋の有名デパートに出店しているH君は、大改装されるデパートのフロアに相応しい、斬新なデザインの売場にするよう、デパートから求められました。

 

そして、「斬新」な売場デザインをデパートに提出しました。

 

しかし、デパート側の満足は得られず、改装後のフロアに相応しくない、もっと別次元の「斬新」なデザインにするよう求められました。

 

それから、H君のデパート通いが始まります。何回提出してもデパート側はOKしません。そのうち、画期的な新デザインの売場にできないなら、出店そのものを考え直すとまで言われました。

 

そして、これが最後と、H君が提出したデザインがようやくデパート側に認められました。その「斬新」な売場は評判となり、新聞の記事にもなりました。

 

この話を聞き、僕はそのデパートに、彼が話した「別次元」の売場を見に行きました。そして、「これが菓子売場か」、まるでブランド化粧品売場だ、なんとファンタジーに満ちた売場ではないかと、驚きました。商品の包装も、とてもお菓子とは思えない、お洒落な、美しいものでした。

 

そのデパートも今や、昔の面影はなく、H君も、かねてよりの販売先の早期転換に成功、今はホッとしていると、先日の手紙に書いてきました。