maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

父と曲尺

ある時期、父は日曜大工に凝っていました。

 

加工のしやすいラワン材を買ってきて、ラジオを置く台や、兄や僕のために大きな本棚をつくってくれました。

 

ところが、板にノミで穴をあけ、そこに棚板の凸を入れようとすると、

位置が合わず、入らないのです。そこで父は穴を大きくして何とか組み立てたのですが、すき間ができ、やや不細工でした。

 

何度も同じことが起きました。しっかり長さを測って穴をあけたり、切ったりするのですが、どうも寸法が合わないのです。ついに父は原因を突きとめます。使っていた「かね尺」の目盛りが狂っており、不良品だったのです。

 

かね尺、あるいは「曲尺」は、大工さんが使う日本式のカギ型の物差しで、金属製です。(木製もあるかもしれません)父の曲尺は、その目盛りが、間違っている不良品だったのです。どうりで、合わないはずです。

 

父はとても残念がっていました。

 

道具は大切です。女性の場合は良くわかりませんが、男性の場合は、「道具から入る」と言われるほど、玄人でも素人でも、道具に凝る人が多いです。

 

大工さんは、お気に入りのノミの刃先が、長年使い込んで小さくなっても、まだ使っています。

 

バットを抱いて寝た野球選手がいる、という話をききました。イチローは、グラブなどの道具にうるさく、とても大切にしたことが知られています。

 

世界的なプロ・ゴルファーの青木功は、ゴルフ場で愛用のパターが盗まれたことを公表し、やがて手元に戻ってきたことがあったと記憶します。

 

誰にでも、「これでないと」という道具がありますね。