maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

ラスト・ラン

競馬は美しいです。

 

馬体が美しく光り、騎手の勝負服が色鮮やかです。

 

スタートし、向こう正面にかかると、馬たちは、走るというより、楽しそうに飛び跳ねます。それに蹄の音が加わり、実に躍動的です。

 

この美しさ、躍動感は、テレビでは1パーセントも伝わりません。

 

最終コーナーを回ると、騎手はムチを入れ、ゴールまで叩き合いになるので、向こう正面とはまったく違う世界になります。

 

さて、リーディング・ジョッキー・レースでトップ・グループにいるような騎手は、良い馬に乗ります。そして、たくさん勝ちます。どうも、調教のときから、馬と心を通じ合うようです。

 

1990年12月の有馬記念は、国民的な人気者「オグリキャップ」のラスト・ランでした。それまでの数レースで、「オグリ」は勝てませんでした。「オグリ」はもう「終わった」というのが大方の見方で、ファンは悲痛な思いで競馬場に来たことでしょう。

この「引退」レースでは、それまでの騎手に代わり、名手武豊(たけゆたか)が乗ることになりました。後に、武騎手が述懐していますが、「オグリ」は「闘志」を忘れていたようです。武は、毎朝の調教で、「オグリ」の「闘志」を徐々に呼び醒ましていきます。

 

そして最後のレース。好スタートを切った「オグリ」は、最後の直線で、鞍上の武に応え、差しきります。勝つ「顔」をしていました。

 

51歳になった武豊は好調です。2020年度のリーディング・レースで、4月現在、川田将雅、ル・メールに続き、3位につけています。

「闘志」に再点火されたのでしょうか。「オグリ」を想起してしまいます。