maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

大阿闍梨

酒井雄哉(さかい ゆうさい)( 1926〜2013)さんは、39歳で比叡山延暦寺の僧になり、47歳で「千日回峰行」に挑み、2回達成しました。「満行」2回は千年の歴史で3人目です。

 

1回が7年の荒行で、これを2回、合計14年間にわたり、気が遠くなるような修行をしたわけです。2回目の回峰行を終えたときは、60歳になっていました。

 

テレビで、「大阿闍梨」(だいあじゃり)となった酒井さんを見ましたが、肌は透き通るように輝き、とても爽やかな感じでした。表情は柔和で、話し方は穏やか、自然体で生きているというような内容だったと思います。

 

千日回峰行という荒行のすさまじい内容を聞くと、小さなことに一喜一憂している自分が、本当に小さく思えます。

 

戦後、転職を重ねていた酒井さんが、この荒行に挑んだ動機はわかりません。

 

しかし確かなことは、何かの理由により、酒井さんは、この荒行に挑む「覚悟」を決めた、ということです。何か強い「力」が酒井さんの背中を押したのだと思います。そして、14年間、2千日にわたる荒行を達成し、「大阿闍梨」という位の僧になりました。僧というより、「聖人」です。

 

千日回峰行とは、簡単にいうと、7年間で千日、午前1時から、山や谷を40km歩き、260カ所の聖所で礼拝します。この荒行を途中でギブアップするときは、腰に差した短刀で「自害」です。病気でも許されません。足を踏み外して谷へ落ち、死ぬ危険もあります。

 

さらに厳しい行は、700日の回峰行を終えたときの「堂入り」です。9日間、堂の中にこもり、断食、不眠、です。堂から出るのは、仏に供える水を汲むときだけです。そして10万回、不動明王に念仏を唱えます。9日目には意識もうろうとして、死の一歩手前、という状態です。(以上、ネット情報を参照しました)

 

普通の人でも、「強い力」に背中を押されれば、これだけのことができるのです。これがキーワードです。転職を重ねながら、なんとなく比叡山に引きつけられた酒井さんを、不思議な力が押したのです。

 

酒井さんが千日回峰行を2回達成したということは、大変尊いことです。今、その「尊さ」を、酒井さんは大勢の人に分かち与えています。酒井さんは淡々と、「他にやることがなかったから」と言いますが、結果として、「人のため」に、偉業を成し遂げました。