maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

大坂なおみ

この稿を執筆中の2020年9月12日、大坂なおみ選手が、全米オープン・テニス大会で優勝しました。

 

この大会にのぞみ、なおみ選手は7種類のマスクをつけると宣言しました。それぞれのマスクには、白い文字で、これまでに人種差別の犠牲になったと思われる、黒人の名前が書いてあります。人種差別に対する抗議です。

 

なおみは、ニューヨークで行われた今大会で、第1戦から準決勝までの6試合で、6種類のマスクをつけて入場し、6人の黒人犠牲者の名前が世界に放映されました。

 

そして、決勝では、7人目のマスクをつけ、目的を達成しました。うれしかったと思います。

 

私は、自身のブログに以下のように書きました。

「今回のなおみ選手は、これまでと顔つきが違う。その理由は、人種差別に抗議するという、『公』の目的のために闘っている、という点である。決勝では、その『公』の目的意識が強ければ勝つ、もし、『優勝』という『私欲』がちらついたら、勝つのは容易ではない」

 

決勝は、非常に興味深い試合でした。これまで破竹の勢いで勝ち進んできた、世界ランク9位のなおみが、世界ランク27位のアザレンカ選手に、第1セットを1−6で落とします。

 

第2セットが始まるまでの間、なおみはベンチでタオルを頭からかぶります。何かを考えています。技術的なことであれば、ほおかむりをしないでしょう。何かを考えています。

 

そして、第2セットが始まり、6−3でなおみが取ります。さらに、第3セットも6−3でなおみが取り、優勝です。同大会の決勝では、珍しい逆転勝利です。

 

第1セットを落としたなおみは、ほおかむりをしながら、自分が亡き黒人たちのために闘っていることを思い出したのです。立ち上がったなおみは「無私」でした。そして、強烈なショットを放ち、勝ったのです。不思議な「強い力」に背中を押されて。

 

試合後のインタビューで、なおみは「この大会がきっかけで、世の皆さんが人種差別のことを話し合ってくれており、それがうれしい」と語りました。

 

スポーツ解説者たちは、なおみが精神的に成長したとか、新任のコーチが良い、などと言いますが、本質は、なおみが個人的な利益ではなく、「公」のために闘ったということです。