maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

塞翁が馬(2)

 

アメリカでの研究で、大発見をし、大きな「山」を迎えた山中さんですが、思わぬ事情により、日本に帰ることになりました。「谷」です。ここからは、広島大学での講演も参考にします。

 山中さんは帰国後もマウスでES(万能)細胞の実験を続けましたが、日本には、アメリカと違い、マウスの世話係がおらず、山中さんが、何百匹というマウスの世話をしました。加えて、日本政府(文部科学省)は研究費の予算を毎年減らし、特に、産業にむすびつかない「基礎研究」は犠牲になっています。

 そういう劣悪な研究環境で、山中さんは帰国後1年も経たずにノイローゼになり、研究者をあきらめ、外科医として再就職する寸前までいきました。大きな「谷」です。

 そのとき、アメリカで人間のES(万能)細胞をつくることに成功したというビッグ・ニュースが飛びこんで来ます。マウスのES細胞の研究をしていた山中さんは、「これだ」と飛びつきました。人間のES細胞ができれば、それから、神経細胞をつくり、パーキンソン病を治すなど、無限の再生医療への道が開けます。

 しかし、ES細胞は、「受精卵」からつくるので、日本では、倫理上みとめられません。これが大きな壁となりましたが、「成熟した細胞」をリセットし、受精卵に近い状態まで、戻す方法があります。1962年にガードン氏が成功しています。これにより、人間のES細胞をつくることに成功します。これを「iPS細胞」と名づけ、2012年にノーベル賞を受賞しました。エヴェレスト級の「山」がきました。

 このiPS細胞を、体内に入れ、悪い細胞、がん細胞などと置き換えるのが「再生医療」です。実用化すれば、人類にとり、計り知れない希望です。また、「新薬」の製造にもつながります。早いものは、あと1〜2年で実用化します。

 山中さんは、何度も「谷」を経験しながら、努力を続けました。そして、「谷」のあとには「山」来て、研究を続けることができました。「山」は、努力に対する天からのごほうびだと思います。ドアをたたき続ければ、いつか開かれます。

 山中さんはアメリカの指導者から学んだ「VW」を実行しています。「V」は Vision (目標)、「W」は、Work Hard(努力) です。ハードワークを続けていると、あるとき、強い力に背中を押され、大きな仕事ができます。ハードワークをつづける秘訣は、「ハードルを下げる」ことです。その方法は、僕のエッセイ集に書いておきました。