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スピーチ形式のエッセイ

武士の家計簿

 テレビに良く出る磯田道史氏が書いた「武士の家計簿」を読んでみました。

 

 この本は読みやすく、1回読んだ後、また読み返しても面白く、読者の興味を引くように書かれています。専門書に匹敵する、内容の濃い本ですが、素人にも分かりやすく、飽きさせません。著者の筆力はすごいと思います。

 

 磯田氏が、神田の古書店で発見し、16万円で購入した古文書は、加賀百万石の藩士、猪山家の37年間にわたる詳細な家計簿でした。

 

 下級武士は代々下級武士で、藩からの俸給も決まっていましたが、武士の対面を保つための冠婚葬祭の出費が多く、年収の二倍もの借金をかかえるのが普通でした。

 

 しかし、その制度の中でも、出世する道はありました。それが「そろばん」です。加賀藩は何百人というそろばん係を置き、藩の会計処理をさせていました。猪山家の七代目当主の信之は、そろばんが特に良くできたので、藩会計のトップに抜擢されます。

 

これにより、俸給「米、四十俵取り」から、「米、七十石の領主」に出世しました。

 

 明治になり、九代目当主の成之は海軍の主計トップにまで出世します。江戸末期の加賀藩の下級武士の年収が、現在の価値で150万円とすると、海軍の青年将校、成之の年収は3600万円もありました。

 

 「武士階級」がなくなり、旧武士たちの中には、借金して「商売」を始める者もいましたが、1年で失敗し、大切な「家」を売り払う事態となりました。多くの者は、それ以後は、現在で言う「年金」で細々と暮らしたようです。