maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

香港のビジネス・ランチ

 

コロナ時代、飲食店では、客は向かい合って座らずに並んで座り、となりの人とは、ビニールのカーテンで仕切られ、食事中は話してはいけない、といいます。

 

こんな食事があるでしょうか。美味しくも、楽しくも、何ともないでしょう。

 

それだったら、出前してもらい、家で、家族や友人と、楽しくお喋りしながら、

食事するほうが何倍もいいです。

 

昔、香港で、世界一の中華料理を食べながら、何の味もせず、美味しくもなく、何を食べたのかもわからない、という経験をしました。

 

僕のいた会社から鉄製品を買ってくれる、大事な香港のお客さんがありました。あるとき、僕は香港に出張し、お得意さんである女社長が、僕を昼食に招待してくれました。いわゆるビジネス・ランチです。

 

香港の中華料理は、世界一美味しいことで有名です。広東料理上海料理北京料理四川料理、なんでもあります。

 

席につくなり、女社長は、「お宅の会社の値段は高い」、と切り出しました。

 

そこへ、美味しそうなオードブルが運ばれてきました。女社長は、「どうぞ」とひとこと言っただけで、他社に比べ、わが社の販売価格がいかに高いかを説明します。僕はオードブルを一口食べただけで、女社長の話を聞きます。

 

それから、我が社のライバルたちの販売価格がいかに安いか、延々とまくしたてました。その間、野菜、肉、魚、鳥、ありとあらゆるご馳走が運ばれてくるのですが、女社長は、延々と我が社の批判を続けます。

 

結局、何を食べたかも分からず、味も分からず、杏仁豆腐を最後に、ビジネス・ランチは終わりました。

 

しかし、これが香港式の商売であり、成功しているのです。