maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

革靴のナイポン

「トレパン」に、ピカピカの革靴をはいた「ナイポン」。

   「トレパン」は、トレーニング・パンツの略です。昭和30年代、運動するときにはいた、白いストレートのズボンです。体育の授業や、運動会では、男子も女子も、先生も、全員トレパンをはきました。

   「ナイポン」というのは、中学時代の、美術の先生(男性)のあだ名です。

名字はナイトウ、顔がタヌキのポン太に似ていたから、「ナイポン」です。

   さて、ナイポンは、いつも運動靴をはいていました。入学式や卒業式でも。

しかし、運動会になると、必ず、トレパンに、ピカピカの黒い革靴を履いてきます。グラウンドは砂と土ですから、革靴はすぐに汚れてしまいます。

   なぜ、そういう「逆」のことをするのか、知るよしもありませんが、僕たちの間では、「芸術家だから」というのが通説でした。

 

理科のF先生は、お腹がすごく出ていますが、合気道の達人。以前、お腹に針金を巻いて、エイッと気合いを入れたら、太い針金がプツンと切れたという逸話を、兄から聞きました。

   英会話のS先生は、ケンブリッジ大学で学んだそうで、英国紳士の風格を感じさせました。先生は、当時は珍しい、大きなテープレコーダーを教室に持ち込み、本場の英語を聞かせてくれました。授業はゆったりとしたペースで進み、輸入品のテキストは、2〜3ページ進んだのみだったと思います。

   担任は、予科練出身の、キリッとした独身男。数学のO先生で、僕がいたバスケット部のコーチ。PTAのお母さんたちにモテタと思います。

   夏目漱石なら、これらの先生たちを、「坊っちゃん」のように、面白く描写したでしょう。

   尊敬に値する、人間味あふれた先生たちでした。