maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

J君よ、安らかに

  誰かが、庭を覗きこんでいます。背の高い、外国人の男性のようです。

  出てみると、アメリカにいる筈の、J君でした。僕が高校時代、1年間留学していた、グロトン・スクールの同級生です。

   ベトナム戦争の最中で、彼の乗っている空母が横須賀基地に寄港した為、住所を頼りに、鎌倉に住んでいる僕を訪ねてくれたのです。学校時代の思い出話や、空母勤務のことなど、夕食を共にし、夜遅くまで語り合いました。

   グロトン校時代に、クリスマス休暇中、2日ほど彼の家に招かれ、スキーに連れていってくれました。J君の弟もグロトンに在籍していたので、裕福な家庭でした。確か、ニュー・ハンプシャー州だったと思います。

   J君は、ハーバード大学卒で、ベトナム戦争後は、最高ステータスである、ニューヨークのウォール街金融街)に戻りました。

         そうしたある日、グロトン校から届いた校内誌を見て、J君が、事故死したことを知りました。死因は、ビルの高層階にあるジムで、ランニングしているとき、足を滑らせ、窓ガラスを突き破り、地上に落下した、というものです。

   地上に落下した原因が、不自然に思えました。グロトン校の同級生たちは、沈黙を守っています。ご両親が、本人の名誉のために、そうした発表をしたのでしょう。

   J君は大変真面目な、優しい、親切な男でした。性格的に、生き馬の目を抜くようなウォール街よりも、学校の先生の方が、向いていたように思います。

   本当にナイス・ガイだったので、残念です。

   友情は続きます。いずれ、あちらでゆっくり会います。

                                      了

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