maboroshispeechのブログ

スピーチ形式のエッセイ

雀卓お願いします

「麻雀卓を至急お願いします」。

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稲山嘉寛氏

   新日本製鐵の稲山会長ご一行が、メルボルンのホテルに無事チェック・インしたので、僕は支店長とともに、ロビーで一息入れていました。そこへ、稲山会長の秘書の方が来て、会長がすぐ麻雀を始めたいので、雀卓を用意して欲しい、とリクエストしたのです。1975年頃のことでした。

   今回の稲山ミッションをアテンドする幹事商社のM物産は、すでにホテルを去り、この場にいません。そこで、急遽、我が社の社宅に運転手をやり、雀卓を持って来させました。

   これは、M物産の大失態で、稲山会長の部屋に雀卓を用意しておかなかったなど、あり得ないことです。会長の麻雀好きは有名でしたから。

   それからがすごかったです。

   稲山会長は、関係会社の工場完成式典に列席するために、オーストラリアに来たのですが、その式典に出席した他は、すべての予定をキャンセルし、2泊3日、取り巻きの取引先社長連中と、ホテルで昼夜、ぶっ続けで麻雀でした。

   2日目、近くの中華料理店に会長をお迎えして、商社主催で、食事をしたときのことです。円卓が3つ、僕たちヒラの駐在員は、末席にいましたが、何と、主賓である稲山会長が、ウェイターに、僕たちのテーブルの方を指さし、ビールを運ぶように指示しているのが見えました。

   他の社長連中が、ワイワイ騒いでいる中で、会長は僕たちの席にビールが足りているか、気にかけてくれたのです。さすが、世界に冠たる新日鐵の会長、日本財界のトップ、あの人の下で働いてみたいな〜、と思いました。

   メルボルン空港に、ご一行を見送りに行ったとき、僕は会長に「お疲れではないですか」とお声をかけたのに対し、会長はニコニコと「あ、飛行機の中で眠れるので、大丈夫です」と元気に飛び立って行かれました。デキが違います。

                                     了

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